コロナ禍の学生街をどう生き抜くか・第2回「居酒屋わっしょい」(全4回)
西早稲田に店を構える「居酒屋わっしょい」は、新型コロナウイルスによる影響を大きく受けた店の一つだ。この店はクラウドファンディングをはじめとする様々な試みから、厳しい状況を乗り越えようとしている。来客の多くが学生という特異な環境である早稲田・高田馬場。学生が街から消えた今、飲食店はどのような状況にあるのか。また今後の学生と飲食店の関係をどのように見ているのだろうか。「居酒屋わっしょい」スタッフの今村浩祐さんにお話を伺った。
—はじめに緊急事態宣言が出た頃の様子をお聞かせください。
大きく影響を受け始めたのは4月からです。本来、4月は大学の新入生歓迎コンパが行われるので、その会場としてうちの店を使ってくれることが多いんです。そのため、居酒屋わっしょいのような大きな箱を持つ居酒屋は、例年4月が年間で最も売り上げが多い月なのですが、今年はその売り上げが全滅してしまいました。一時は客足が例年の1割以下になりました。普段だと20時からがお客さんの来る時間なのですが、そのくらいに店を閉めていましたね。6月から少しずつ客足が戻ってきましたが、それでも例年の3,4割ほどです。現在では例年の7割くらいの人数のお客さんが戻ってきてくれています。
しかし依然としてこの店のメインの客層である団体客は全く戻ってきていないなという印象です。団体客に関しては、特に4月5月ではゼロ。今もほとんど戻ってきていません。それが戻ってくると思って店を続けていますが、先行きはまだ不透明ですね。
—居酒屋わっしょいは5月頃にクラウドファンディングを始められましたね。
4月の売り上げが大変厳しく、また5月にも客足が戻らなかったので、クラウドファンディングを活用しました。タオルや帽子、グラス、ジョッキ、あとはTシャツやステッカーなど、いろいろなわっしょいグッズを買って支援していただきました。
―反響はいかがでしたか。
かなり大きかったです。私たちはTwitterで「クラウドファンディングはじめました」の告知をしただけなのですが、あっという間に様々な方に知っていただきました。これを通して本当に早稲田の飲食店は危ない状況で、居酒屋わっしょいもかなりピンチなんだということを知ってくれたのだと思います。
告知をしてから一夜で700万円、36時間で1,000万円の支援をいただきました。これだけの勢いで支援をいただけたのは、現役の学生以上に大学OBOGの方々が支援してくれたという点が大きかったですね。この店は30年やっているので、大学生の時、この店に通っていたOBやOGがたくさんいるんですよ。今回、彼らが「あのときのゲロの清掃代をお返しします」というふうに、迷惑代・清掃代としてたくさんの支援をしてくれたんだと思いますよ(笑)。普通の居酒屋じゃなかなかこんなには集まらないですからね。
―この店内にずらっと並んでいる木札も、クラウドファンディングのものですか?
はい。支援の値段ごとにお返しを色々と用意していて、この木札もその一つです。約170枚ほど貼っていますね。本当に多くの方々に支援していただきました。
うちの店のスタッフは私よりも上の年代の人たちが多いので、最初はクラウドファンディングと言われてもみな「クラウド…?」という感じで、全然何がなんだがわかっていなかったんです。特に、社長なんて何度言ってもなかなか覚えてくれなくて。でも、スタートしてすぐにたくさんの支援が集まると、その翌朝には「クラウドファンディングどうなった?」と社長もスタッフもすらすらと言い出して、みな名称を覚え出しましたね。それほど私たちにとって印象的な出来事でした。
―他にも業態としてなにか新しいことを始められましたか?
4月5月の大幅に売り上げが下がっていた時期は、ランチとテイクアウトを行っていました。ただしうちの店は、もともと料理に関しては原価率がかなり高いので、どちらも売り上げの補填として続けることはできませんでしたね。色々工夫はしていますが、今のところはいつも通りの居酒屋の形で、店の中で飲む空間を提供する形態を続けています。
―こうした状況下ですが、やっぱり居酒屋で楽しみたいという需要はあるように思います。
今は少しずつ少人数で飲みに来る流れが戻ってきているように感じます。ですが、やはり、学生を始めとする団体はまだまだ戻ってこないですね。この期間に早稲田・高田馬場周辺では、店を閉めたところがいくつもあります。
—やはり、この状況では、閉めざるをえない飲食店もあるのですね。
ただ、「閉めた」というのは、「潰れた」のとは別の意味なんです。今は国からの補助もあり、年内のうちは多くの飲食店が潰れないで耐えようとしています。しかし今後も店を続けるためには、耐えるのではなく儲けないといけないんですね。
そう考えると今の状況では、耐えるばかりで儲けることはできません。この周りで現在お店を閉めてしまったところがちらほらありますが、業績が悪化して「潰れた」というよりも、儲からないと判断して店を「閉めた」ところが多いのではないでしょうか。これ以上早稲田・高田馬場で商売をしていても、再び客足が戻るという希望が持てないと判断したところも出てきているようです。
次の春に学生が街に戻ってくるとなれば、多くの飲食店が店を続けるでしょう。ただしもう無理だとなれば、見切りをつけた飲食店から撤退していくでしょうね。潰さないことは簡単ですが、それでもどうしても先に希望が持てないというのが今の現状です。ただこの店は、今の所潰す気はありません。来年には団体のお客さんが戻ると信じて、耐えています。
―学生がメインターゲットのこの街でお店を開くにあたって、今後どのように変わっていくと思いますか。 また元の活気は戻るでしょうか。
そうですね。この冬のコロナの状況次第で大きく変わってくると思います。居酒屋は人を集めることで利益を出すので、この状況に対する恐怖は大きいです。そのため国や大学の方針には大きく左右されるでしょうね。活気に関して言うと、戻るんじゃないかなとは思っていますね。ただし戻って9割くらいで、元のようには戻らないだろうというのが、今の所の見立てです。
ただ唯一の大きな心配は、居酒屋で飲むことを知らない学生がでてくるということですね。飲み会のやり方を知らないし、「飲み会って楽しい!」とか、反対に「飲みすぎた…」とかっていう経験がない世代がいるわけです。そうすると彼らには、飲み会や新歓のノウハウもありませんし、「オンライン飲み会で良くない?」というふうになってしまうと私達にとってはピンチですね。そういったもののやり方や楽しみを分かち合って継承するのも、大学のサークル活動の一つの面だったのだと思います。大学の飲み会文化みたいなものがなくなってしまうのではないかというのは、心配していますね。
―この1年ぽっかり空いてしまった世代がいるわけですもんね。そういった意味でやはり完全にはもとに戻らないのでしょうか。
もとに戻ってほしいという願いはありますが、やはり飲食店としては完全にはもとに戻らないだろうと見ていますね。私たちは学生を多く扱う居酒屋として、安さや大衆性を大切にしてきました。今回もクラウドファンディングを通じて支援していただいたのは、それらを応援したいと思ってくれたファンが多くいてくれたからだと思っています。今後、学生を始めとする客が少なくなった早稲田・高田馬場の飲食店として生き残っていくためには、このような店の特色や工夫がより重要になってくると思いますね。
―ありがとうございます。最後にこの記事を読んでいる方にメッセージなどいただければ幸いです。
「居酒屋わっしょいは毎日朝から夜まで変わらず、元気にやってるから、また飲みに来てくれ!」と伝えてほしいです。居酒屋わっしょい含め、この周辺の飲食店はあまり見通しは明るくないんだけど、暗くしていてもしょうがないから。昔と変わらず、明るく楽しい場所が残っていると思ってもらって、来れるようになったら皆さんで再び店に来てほしいです。
だからまた元気に朝まで飲もう。大将も元気だし、うちは変わらないメンバーで元気にやってるから、また飲みにおいで。そんな感じかな。
取材・文 とも仮名
居酒屋わっしょいHP https://wasshoi.owst.jp/
居酒屋わっしょいTwitter https://twitter.com/wassyoibaba