参加できるテレ東バラエティー『今日からやる会議』は新たなテレビビジネスを開拓する 合田知弘Pインタビュー
2020年1月から放送開始しているテレビ東京の番組『今日からやる会議』は、人気お笑いコンビ・さらば青春の光とカミナリが、出演ギャラ0円、ビジネスの成功報酬のみで、お金のないテレビ業界の未来のために新規ビジネスの開拓に臨むビジネスバラエティーだ。
実際に2019年には、インターネットの広告費がテレビを抜き、テレビ業界の市場規模の縮小が懸念されている。今年はコロナウイルスの影響も受けており、広告収入に依存したビジネスモデルは依然として厳しくなるだろう。そんなテレビ業界の未来を模索する試金石である『今日からやる会議』は、この先どのような展開を見せるのだろう。同番組プロデューサーの合田知弘さんに、番組の企画経緯からテレビ業界の将来まで根掘り葉掘り伺った。
合田知弘プロデューサー
入社後、人事部の採用担当を経てコンテンツビジネス部に配属。『モテキ』『マジすか学園』シリーズほかのコンテンツプロデュース、バラエティー番組の二次利用ビジネス企画開発を担当。その後、テレビ東京グループのデジタル戦略会社であるテレビ東京コミュニケーションズと編成部(デジタル担当)にてネット連動番組の企画や「ネットもテレ東」「TVer」ほか見逃し配信サービスの立ち上げ等を経てコンテンツビジネス部に復帰。直近は『おしゃ家ソムリエおしゃ子』『新米姉妹のふたりごはん』『note連動ドラマ』『今日からやる会議』プロデュースほか。ドラマプロデュースとビジネスプロデュースの両軸を担当。
テレ東×さらば×カミナリの新たな挑戦
――『今日からやる会議』の企画経緯を教えてください。
合田:もともと僕らがテレビ東京のコンテンツビジネス部という、番組の著作権をビジネスに転用したり、最初からマネタイズを見据えた形で番組制作を行ったりする部署に所属しておりまして。いま僕らの部署では主にドラマコンテンツをビデオグラムや動画配信の形でマネタイズをするのが収益の軸となっています。他にも、イベントや物販、インフォマーシャルなどの広告タイアップもしますし、ヒットしたドラマについては、ゆくゆくは映画や特番化も目指します。ドラマは動画配信のキラーコンテンツで、僕らも一定の手応えも感じているので引き続きやっていきますが、ある種のやりきった感もありました。『今日からやる会議』は、ドラマ以外のジャンルで、マネタイズを目的とした番組の制作が何かできないか、という新たな模索が端緒でした。
――ドラマ以外でのマネタイズの幅を広げることが目的だったのですね。それでは、なぜビジネスバラエティーというジャンルの番組を企画したのでしょうか。
合田:過去の企画書を見返すと、もともとは『テレ東千本ノック会議』という番組タイトルだったんですよね。番組自体でマネタイズできるプロジェクトをどんどん生み出す、というコンセプトだったんです。バラエティー要素がついたのは、番組にも出演する太田勇プロデューサーがバラエティー番組制作の経験が豊富だった影響が大きいです。番組の担当者でジャンルや演者さんの方向性が結構決まってくることが多いです。
――お笑いコンビのさらば青春の光さん、カミナリさんのキャスティング理由を教えてください。
合田:太田Pがさらばさんとは親しい間柄なんですが、さらばさんは個人事務所で、森田さんが社長、東ブクロさんが副社長なので、お金を儲けることにおいては貪欲にやってくれるかなというところでお願いをしました。何より、お二組とも非常にフットワークが軽いし、テレビ東京で新しいチャレンジに乗っかっていただけるような方々だったところが大きいですね。
――「今日からやる会議」は出演ギャラ0円、成功報酬のみ、という演出にはなっていますが、本当にノーギャラなんですか。
合田:本当にノーギャラでやってもらっています。さらばさんとカミナリさんの4人には番組の演出通り、プロダクトやサービスから得られた収益の配分を成功報酬とさせていただいています。池の水サイダーが売れた時は、約60,000円のお支払いになりました。放送された、あの金額が4人の報酬になっています。
――ノーギャラについて、さらばさんとカミナリさんは納得されていますか。
合田:出演してくださっているので、納得はしてくれていると思うんですが…。とはいえ、お二組とも人気コンビですし、僕ら側としても番組内でサービスやプロダクトをヒットさせて、ちゃんとお戻しをしなければいけないという思いがあります。なので、さらばさん、カミナリさん、番組スタッフ一同、全員が新規ビジネスを成功させたいという思いがありますね。それが会議の真剣さに繋がっていると思います!
――実際に、さらばさん、カミナリさんから、たくさんのアイデアが出ていますよね。
合田:やっぱり芸人さんの発想力には日々驚かされることが多いですね。東京の新しいお土産をつくるというプロジェクトでは、カミナリのたくみさんを中心に「東京フォーク・東京スプーン」というユニークなアイデアを出していただきました。実際にプロトタイプを作って、銀座ロフトのバイヤーさんにプレゼンをしたら、結構な数を発注していただくことになりまして。そういった、左脳からジャンプして右脳に刺さるような斬新なアイデアは、僕たちにはないような発想ですよね。
――番組が開始して半年ちょっとで「今日からやる会議VR」「池の水サイダー」「カミナリたくみ・さらば森田Tシャツ」「AI Vtuberタミ子」「東京土産プロジェクト」「ザ・ゲリラ」など数多くのプロジェクトが番組内から始動しました。スピード感とリアルさから”ガチっぽさ”を感じます。
合田:結構ハイペースでやっています。収録は隔週の金曜日なので、収録日に合わせる形で水面下で準備をひたすら進めています。他の番組とは違って、ビジネスを扱っている性質上、筋書き通りに準備をするのが難しいんです。会議の模様を収録して初めて、二週間後の次の収録とプロジェクトの方向性が決まってきます。ビジネスのスピード感は本来は案件ごとに異なりますが、僕らの場合は無理やりテレビ番組の“2週間ごとの収録“というスケジュール感に当てはめて進めるという手法を採っています。
――番組では、「カミナリたくみTシャツ」や「さらば森田Tシャツ」を購入した方々が、番組内の実際の会議に参加したり、社員食堂でさらばさんとカミナリさんとご飯を食べたり、AIタミ子の試作会に参加したりなど、これまでのテレビにはない視聴者との近さを感じさせます。
合田:なるべくみんなが参加できて関われる番組にしたいというコンセプトがあります。今までは、テレビ局側が作りたいものを作って見せるような一方通行のコンテンツが多かったし、もちろん例外は多くありますが、少し時代とズレてきているのかなと感じていました。それなら、オンラインサロンのように、視聴者の方々に番組内のプロジェクトに主体的に参加してもらったり、企業さんから飛び込みのご提案をいただきながら手を組んでいってみんなで番組を大きくする方が、今の時世にあっているなと考えたのがきっかけです。むしろ、土曜の深夜帯のバラエティーでビジネスをやろうとすると、予算的にも規模感的にも僕らだけでできることは限られてしまうんです。だから、視聴者の方々と一緒に発想を膨らませたり、企業さんと連携したりすることは必然でしたね。
――視聴者が番組にここまで介入することができるのは、新しい番組のあり方だと思いますが、実際の反響はいかがですか。
合田:SNSから番組ホームページ経由まで、番組をご覧になったさまざまな個人や企業の方々から番組に参加したいというお問い合わせを結構多くいただいており、手応えは感じています。正直、素性の分からない方もたくさんいるので(笑)、丁寧にコミュニケーションをとりながら、相談しながら進めています。あとはビジネス賢人の方も、他案件でのご縁を大事にしていて、例えば「東京フォーク・東京スプーン」のプロジェクトを一緒に進めているアートディレクターの千原徹也さんは、「青春高校3年C組」のCDジャケットにも携わっているご縁もあり、同僚の映画プロデューサーからの紹介で出演いただいているんです。
――人と人との繋がりから、ビジネスが実を結んでいますね。
合田:はい。さらに、千原さんからご紹介いただいたのが、グッズプロデューサーのジェームス秋山[1]さんという方で。秋山さんのご尽力で「東京フォーク・・東京スプーン」のプロトタイプを新潟県の燕三条でつくっていただきました。銀座ロフトへのプレゼンの際にも、千原徹也さんやジェームス秋山さんのようなキーパーソンが参加してくださっていることで、プロジェクトへの信頼と説得力が段違いになったと思います。そういった形で数珠繋ぎ的にビジネスが進むのが、この番組の醍醐味だと思っています。プロジェクトに携わる方が増えることで、より良い形でプロダクトを市場に出していく、いい事例になっています。
[1]株式会社エースマーチャンダイズ代表、千原徹也が手掛けるブランドKISS, TOKYOの取締役。ロバート秋山竜次のいとこでもあり、クリエイターズ・ファイルのグッズ展開や、梅宮辰夫になりきれるカラダモノマネTシャツ等のヒット商品を手掛けている。
テレビ業界の現在地
――テレビ業界は今、苦難の状況に立たされています。電通「日本の広告費2019」では、2019年にインターネット広告費がテレビ広告費を上回り、テレビ業界の市場規模は縮小しているように思われます。実際に現場で働かれていて、危機感を感じていますか。
合田:2006年に入社してから危機感は常にありますね。テレビという単体メディアの業界市場規模は確実に小さくなっています。やはり、若い方々のテレビ離れの影響は無視できません。今では、テレビという受像機を持たない方々も増えています。そもそも、インターネットがここまで発展していくのに、テレビコンテンツは受像機が決まった場所で、決まった時間で、決まった機械でしか見られない、という状況を放置し続けてきたことが問題だったと認識しています。それが生み出す不便は改善していって、コンテンツの面白さを前面にだしていかねばならないと考えています。
――パイが少しずつ削られている状況ですが、今後どのようにテレビ業界は闘っていくことになるのでしょうか。
合田:テレビにもまだ地力はあると思っています。特にリーチ力とコンテンツ制作力は他の媒体には代替できない強さがあります。若い方が離れ始めているとは言え、リーチ力でいえば、アプリのサービスで用いられるMAUやDAUの指標でいくとテレビは数千万~1億MAUの規模感があります。また、YouTubeやNETFLIXなどの動画プラットフォームが一般的になっているとは言え、映像コンテンツの業界については依然として制作者、プロデューサー、演者さんも含めてテレビ局を中心にエンタメの世界がまだ回っているのでは、とは思います。ただ、その強みも数年後にはどうなっているかは分からないので、今のリーチ力とコンテンツ制作力があるうちに、視聴するための利便性を一層上げることは必須ですし、注目してもらう・面白がってもらうための工夫を続けていかなければいけません。現状では、見逃し配信サービスや定額動画配信を行うことで、テレビという受像機を使わずとも、好きな時間好きな場所で簡単にコンテンツと接続できる環境を最低限、整備しています。
――近年では、放送外事業に力を入れているのも注目的です。池袋のMixaliveのようなイベント事業や、相内優香アナウンサーをVチューバー・相内ユウカにしたメディア展開、eSPORTSをはじめとしたゲーム関連のフックアップなど、テレビビジネスが多面化している印象があります。私は、媒体が必ずしもテレビではなくなるという意味で、今後、テレビ局は純粋な企画屋になるのかなと予想しているのですが、実際に現場で働いていてどのような感覚をお持ちですか。
合田:企画屋という表現は的を射ていると思いますね。僕個人としてはコンテンツビジネスに長年携わってきたことが大きいですが、テレビ局の事業ドメインは必ずしも放送ではなくてもいいと思っています。テレビ業界以外でも、事業の多角化は大きなトレンドになっているので、自然な成り行きだと考えています。事実、テレビを見てもらうことが僕らにとってのゴールではなくて、多くの方々に企画を楽しんでもらって、最終的にファンの方々(視聴者・スポンサー企業)の熱量を収益に変えていくことにゴールが変わってきています。単純に面白いと思われる番組を作って流すだけで熱狂的に見てもらえる時代はもう終わっているので、いかに企画に注目してもらうような仕掛けを真剣に考えられるかが、僕たちの仕事だと思っています。
——今後はどのような企画に注目が集まっていくと思いますか。
合田:視聴者の方々に、体験価値や生活の幅を広げるきっかけを提供できる企画だと考えています。オンラインサロンやクラウドファンディングがここまで盛り上がっているのは、時間やお金をかけてでも、自分が没頭できることに主体的に参加・体験する価値が高くなってきているからですよね。『今日からやる会議』は、番組自体に参加できるところが強みですが、たとえば昨年に放送した『サ道』というドラマでは、ドラマをきっかけにサウナにハマる方の声を結構いただきました。『ひとりキャンプで食って寝る』というドラマでも、ひとりキャンプの楽しさを伝えることで新しいライフスタイルを提案しています。番組を通じて、生活者である視聴者の方々に、新しいアイデアやライフスタイルを提案することで、新しい体験をしていただく入り口をつくることができます。視聴者の行動の着地点を広くすることで、コンテンツを楽しんでもらいながら、結果的にマネタイズの方法も広がると思います。
――企画としての面白さの追求する一方で、収益を確保するのは難しいことだと思いますが、それらの両立は可能だと考えていますか。
合田:クリエイティブやアートと、ビジネスが両立させられるのかという問題は、万人が悩んできたテーマですよね。先人が実際に今まで両立してこられたからこそ、今のエンターテイメント産業があると思うので、両立は可能だと思います。ただ、一方通行のコンテンツ提供だけでは、収益を今までのように確保することは難しくなってくると思います。テレビ東京では最近、組織改編もあって、制作セクションでもコンテンツビジネス部のような、マネタイズを前提とした制作を意識的に行う動きも出てきていますが、先鋭的で企画性の高いコンテンツを練り込んで発信しつづけることで、それがファンの方々やスポンサー企業の皆さまの期待に応え、結果的にマネタイズにつながる・・という循環が理想なのだと思っています。
――そういった熱量あるコンテンツを生み出すポイントは何だとお考えですか。
合田:サステナビリティが必要だと思っています。具体的には、クリエーターの方々が面白がって、活躍できる場所を用意し続けることと、確保した収益を次の制作や企画を動かすリソースの原資にすることが必要だと思いますね。成果に見合う対価が約束された環境が整えば、次の制作につながっていく。そのサイクルが上手く回れば、面白い作品が継続的にアウトプットされるはずですよね。会社としての収益も確保しながら、若いクリエーターの方が活躍して、今まで見たことのないコンテンツがどんどん増えていくようなクリエーティビティーのエコシステムを維持し続けたいです。
『今日からやる会議』
番組HP:https://www.tv-tokyo.co.jp/kyoukarayarukaigi/
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「ネットもテレ東」全話無料配信中:https://video.tv-tokyo.co.jp/kyoukarayarukaigi/
取材・文:伊藤勇人