シアターから始まるカルチャーの横断ーDo it Theater
今年に入ってから私たちがリアルで体験をする機会は失われた。2020年4月7日、緊急事態宣言が出されたことで私たちは家の中で過ごすことを余儀なくされている。このような状況下だがシアタープロデュースチームDo it Theaterがリアルイベントを取り戻すべく、大磯ロングビーチ第一駐車場でイベントを開催する。彼らは“新しいシーンは、Theaterからはじまる。”というコンセプトのもと、公園や広場にスクリーンを設置し今までにないシアターを創り出してきた。そんな彼らが今回打ち出す企画は「ドライブインシアター2020」である。ドライブインシアターとは、野外に設置された巨大なスクリーンの前に車を停め、車内から映画を観る新鮮な鑑賞体験だ。なぜ彼らは今イベントを開催することができるのだろうか。新しい映画体験を創り出しているDo it Theater代表の伊藤大地さんに上映活動を通じて実現したいことやこれからの映画体験の行方についてお話を伺った。
今だからドライブインシアター
—Do it theater とはどういった団体なのでしょうか。
伊藤大地(以下、伊藤):Do it theater という名前は「シアターしやがれ」という意味なのですが、私たちは「シアター」自体を人の集まる場所で、人々が集まってコミュニケーションをしたり、体験をする場所だと考えています。映画だけじゃなく演劇や音楽でも、人が一つの場所に集まって一つのものを見つめるというビジョンを共有する面白さをすごく大切にしています。またそうした面白さを共有できるイベント作りを目指しているので、チームとして目的に対して合理的になりすぎないことを重視しています。特にイベント作りでは、偶発性や突発性を大切にしたいと考えています。
—ドライブインシアターとはどんなものなのですか。
伊藤:屋外にある大きな一つのスクリーンに映し出された映画を車の中というプライベートな空間から楽しめる上映施設です。1933年代のアメリカ発のもので、家族やカップルが映画を体験できるレジャースポットとしてアメリカを中心にすごく流行ったんです。家から車に乗り込み映画を見てそのまま帰ることができるので、今で言うところのStay homeしながら楽しめる映画体験だと考えています。
—単純な疑問なのですが映画の音はどのように流すのでしょうか。
伊藤:車載のFMラジオから特定の周波数に合わせてもらってそこから流しています。パブリックなイベント会場に集まりながら、車ごとにプライベートな視聴環境をつくることができます。
—ドライブインシアターはアメリカ中心に流行った文化とお聞きしたのですが、日本にはなかったのでしょうか。
伊藤:日本でも1960年代ごろからありました。しかし、90年代以降シネマコンプレックスが普及してから次第にドライブインシアターは衰退していきました。他の国でも少しずつなくなってしまった文化で、衰退した理由としてはアイドリングストップなど環境への問題もあると思います。
—ドライブインシアターのような体験型のイベントには参加する側に主体性が求められていると感じます。
伊藤:私たちから必要な情報をアナウンスするのですが、過剰な説明はしないようにしています。できる限り来場された方に自分で探してもらえるようにしています。受動的になりすぎるとエンターテイメントにならないので、なるべく自分で楽しみを探してもらうようなイベントにしたいと思います。
—自分から探して何かをするようなイベントやエンターテイメントは増えてきていると感じます。そうした体験型のイベントが増えている理由についてどう考えられていますか。
伊藤:今は両極端なものが存在していますよね。私がこどもの頃はスマートフォンもなかったですが、今は当たり前にオンラインでコンテンツを楽しめる環境だと思うんです。その一方でドライブインシアターのようなわざわざ足を運ばなければいけないイベントもある。リアルイベントは能動的に動くことの身体性における情報量がオンラインと比較してものすごく多いですよね。自分で目的地へ行くこともそうですし匂いや見える景色も違います。リアルイベントは、オンラインのコンテンツと情報の密度の違いという点ですごく求められているんじゃないかなと思います。
映画を観る楽しみ
—ただ家で映画を見ることと実際に映画館に出向いて映画を見ることの違いはなんだと思いますか。
伊藤:自由度があるかどうかが家と映画館では大きく違うと思います。映画を観るために作った時間と家の中で映画を観ようかと思った時間では時間との向き合い方が全然違うと思うんですね。その結果、感じ方や記憶の仕方に違いが生まれるんじゃないですかね。
— ドライブインシアターでの映画体験は映画館に行くこととはまた異なりそうです。
伊藤:イベントに向かう車に乗り込むところから映画を観る行為のストーリーになっていると考えています。これは僕の論理なんですけど、移動性を持って景色が変わっていくことはすごく映画と相性がいいと思っていて。映画のストーリーが進んで、次々と場面が転換されていくことがドライブインシアターと親和性が高いんじゃないかなと。車にのって会場いくまで、映画を見終わって家に帰るまで、その1日がひとつの物語になるような、時間と空間の演出を心がけていますね。
—新型コロナによる影響は映画文化にどんな変化をもたらすと考えていらっしゃいますか。
伊藤:家の中でオンラインで楽しめる低カロリーなコンテンツと体験することに比重のある高カロリーなコンテンツの二極化が進むと思います。特に動画配信サービス登場以降、映画体験に大きな波がまだないので、映画体験の新しい定義が生まれると思います。
—どのような定義が生まれると思われますか。
伊藤:最近ハリウッドが資金をかけてネットフリックスに代わる新しい映画の観方を構想しているようです。ある制作会社が一話あたり10分の動画をコンテンツの新しいフォーマットとするサービスを始めているようです。これはオンラインに対しての新しいアプローチなのですが、移動時間にモバイル端末で気軽に見ても没入できるものが、新しい映画の定義の一つになるんじゃないかと思います。今の人は長いものを見る体力や集中力がなくなってきていると思うので、それに合わせた芸術コンテンツをつくっていくんじゃないかなと。
今だからできるイベントを
—新型コロナウイルスによって実際に足を運ぶイベントは開催自体が難しくなっていますが、こうした状況をどう思われますか。
伊藤:リアルイベントをビフォーコロナと同じかたちで開催することはこの1〜2年は厳しい状態に入るのではないかと思います。そうした状況下でも、ドライブインシアターは車というある種のシールドを使えるので、実現可能なコンテンツだと思っています。今後エンターテイメントの幅を広げて、ドライブインコンサートだったり、ドライブイン演劇のようなプライベート空間を保ちながら、みんなで集まって楽しめるコンテンツにアップデートできるのではないかなと。まずはドライブインシアターを実施し、今後につなげていきたいと考えています。
—今後リアルイベントはどのように復活していくと考えていますか。
伊藤:もちろん終息に向かっていくことが一番だと思うんですけど。今後はみんなで予防するための線引きをして経済活動をしていくことになると思います。コロナ禍で学んだことのガイドラインが出来ていくと思うので、それを元に少しずつリアルイベントも復活していくんじゃないかなと思っています。最近海外だとライブフェスや結婚式をドライブインシアターで行う試みもあって、そのひとつの経済活動の方法かもしれません。
—実際にドライブインシアター2020を開くにあたって考慮されていることはありますか。
伊藤:私たちは公衆衛生の専門家の監修を受けながらイベントをメイクしています。今までのドライブインシアターの形では難しいと思うので、今回のwithコロナにおける開催のルールブックに作り直しています。普段のイベントならお客さんとのふれあいがあるのですが、今回はなるべく接触を減らす必要があります。例えば入場時もチケットをもぎるのではなくてQRコードに変えて非接触の形をとったり、トイレも徹底的に消毒することを検討しています。緊急事態宣言延長を考慮して、実施タイミングも6月以降へ調整しています。
新型コロナの蔓延からこれからの映画体験
—新型コロナによって映画館や劇場、ライブハウスなどは自粛を余儀なくされています。それに対し、政府による補填を求めるSave Our Spaceなどの運動も起きています。しかしそうした問題に無関心な人も多く、文化を巡って人々の中で分断が明確になっていると思います。こうした分断をどう捉えていらっしゃいますか。
伊藤:カルチャーにおいては明確な答えを誰も持っていないので、どんな発言もポジショントークになってしまうとは思います。私としては政治経済としてやるべきことの順番をつけた結果だろうなと思います。あくまで私たちは自分の視野角のことしか守ることはできないと思うんですね。だから私たちはドライブインシアターの収益を「ミニシアターエイド基金」というミニシアターを守る活動に寄付させていただきます。その上で、自分に近い領域だけでなくこれからのエンターテイメントのために一つのベースが必要だと考えています。そのベースをDo it Theaterが担えるのではないかと思います。今までにも、音楽文化との架け橋としてSuchmosとのイベントで彼らのライブフィルムを上映するイベントをつくってきました。おそらくリアルイベントを開催できる数少ない形態を私たちは目指しているので、これからもカルチャーを横断するものをつくれたらと思っています。
—大きな変化の過程にあると思いますが、今後のDo it Theater としての展望などを伺いたいです。
伊藤:ドライブインシアター自体は現在クラウドファンディングを実施していて、今後実施日程などを発表していくので是非ご注目いただきたいです。また今後「ドライブインシアター2020」自体もいろいろな音楽・演劇などのカルチャーとの接点を作っていきたいと考えています。全国をまわるキャラバン形式や期間常設のような展開も考えています。ぜひ一緒に応援してもらいつつ、面白い場所を一緒に作る仲間になってもらえればと思います。
~お知らせ~
Do it Theaterは『ドライブインシアター2020』の運営と、新型コロナウイルスの流行によって打撃を受けているエンターテイメント業界への支援のためにクラウドファンディングを実施しています。2020年8月7日23:59まで募集中。『ドライブインシアター2020』についての詳細は下記のウェブサイトをご覧ください。
Do it Theaterのホームページはこちら
https://www.ditjapan.com/
Do it Theaterのツイッターはこちら
https://twitter.com/doittheater?ref_src=twsrc%5Egoogle%7Ctwcamp%5Eserp%7Ctwgr%5Eauthor
『ドライブインシアター2020』の特設サイトはこちら
https://www.ditjapan.com/issue/1084
ドライブインシアター2020クラウドファンディングのページはこちら
https://motion-gallery.net/projects/driveintheater2020
取材・文/伊藤拓海