アダルトビデオが映す現代日本の欲望 業界最大手VRアダルトメーカー、K.M.Produceインタビュー
アダルトビデオは欲望の捌け口としてただ消費されるためだけにあるのではない。我々はアダルトビデオについて知っているようで何も知らない。アダルトビデオは、人間の欲望と呼応してさまざまなテクノロジーと結びつき進化してきた。「Million」や「KMPVR」などの多種多様なレーベルを有するアダルトビデオメーカー「K.M.produce」の広報、井出さんと元製作、現在はアダルトグッズ担当の木村(仮名)さんにエロと芸術の境界線、アダルトを取り巻く変化は日本の何を映しているのかについて伺った。
アダルトビデオという表現方法
—木村さんはいつ頃からこの業界で働かれていますか。
木村:業界に入ったのが2007年の秋ですね。元々エロが好きで、大学の文学部では、人間は何を見て興奮するのかといったことを哲学的に考えたりしていました。大学を卒業して1年プー太郎したんですけどやっぱ働かないとダメかなと思って、 公務員として働き始めました。でも30歳を過ぎて自分の将来を考えたときに、だましだまし欲求を抑圧して公務員をしても人生つまんねーなと思ってしまったんですよ。どうせ一度きりの人生だから、自分が本当にやりたいことをやろうと思ってこの世界に入りました。
井出:木村くんは東大卒ですよ。東大。
木村: 業界には京大や東大の出身の人間とかもいます。ここだけの話男優さんもね、結構高学歴な方がいます。
井出:私は小卒です。義務を終えてないんですよ。冗談ですけど(笑)。
—近年、アダルトに対する風当たりは強くなり、直近では米最大手ポルノサイトの投稿動画が一部を除いて全て視聴できなくなるといった事件がありました。お二人はそういった風当たりの強さを感じることはありますか。
井出:規制がすごく厳しくなってきていますね。撮影場所で言うと昔ニュースにもなっていたけど、渋谷に10トンダンプを止めて、その荷台で撮影するとかゲリラ的なものが多かったですよね。今はそういうのはまったくできないに等しいぐらい。
木村:それと自主規制の基準も変わったと思います。昔のカーセックスの撮影では外の景色が映っていても発売できたんですけど、それが今は窓の外が映っているとダメという基準に変わっていきました。
—フィクションだからこそアダルトビデオは様々なエロを表現できると思います。そういった制約がアダルトビデオの可能性を狭めているとは感じませんか。
木村:ガチかガチじゃないかという問題はエロに限らず、エンターテインメントのすべてに関わるところです。実際には殺せないけど、映画やドラマで殺人のシーンをどれだけリアルに見せられるかはやっぱり大事ですよね。実演ではなくてCGで見せる場合でも、CGに対して怒る視聴者は多分いないじゃないですか。それと同じ問題だと思います。例えば、本当に現実でやったら違法な行為をやって撮るのは素人でも出来るじゃないですか。それをどれだけリアルに見せられるかがプロデューサーや監督の腕の見せ所です。エロだからってなんとなく下に見られていますけど、本気で取り組むとエロだろうと、表現という意味で芸術と変わりないと思っています。
VRアダルトの誕生の必然性と未来
—近年ではどのようなエロの表現が求められているのでしょうか。
木村:世の中の流れがなんでも簡単でスピーディーになってますね。例えば単語を調べるにしても、昔だったら辞書を引かなければいけなかったのが今だったら検索で一発。時間や労力をかけて理解をしようというよりするよりは、わかりやすいものがより求められていると思います。そこがAVにも影響していると思います。「わかりやすいもの」が結果を出す一方で、理解したりハマるまでに時間や労力がかかるものは即時的な結果は見込めない。ただ、後者のような作品は根強いコアなファンが獲得できます。そういう意味で制作の趣向は二極化していると思います。
—重厚でアート寄りのコアな作品を作る人の方が、商業的でわかりやすい作品を作る人よりもかっこいいとするような風潮がありますが、AV業界にもそのような風潮はあるのでしょうか。
木村:それも本当に人それぞれですね。とにかく売れる作品を出すことが正義という考え方もあるし、今後10年間語り継がれるような作品を作ることが正義という考え方もあります。どっちが偉いかとかはあんまりないかな。作り手にはいろいろな人がいるので、それぞれが自分の軸で勝負している。そういう意味では本当に寛容な業界かもしれないですね。もちろんビジネスなので、ちゃんと利益を出さないと生き残っていけないけど。
—映像よりも体験の質を重視するVRが人気を博しているのは、わかりやすいものがめられている一つの例だと思います。VRはどのような部分に支持を集めたのでしょうか。
木村:没入感やリアリティの部分ですよね。今までも主観ものというジャンルあったのですが、VRが没入感やリアリティの質をグッと押し上げました。男優という要素をさらに排除して、自分がこの世界に入っているかのような感覚を得られるのがウケた要因でした。VRは今までのAVの主観ものというジャンルの可能性を広げたと思います。
—これからもVRが可能性を広げるジャンルはあるんでしょうか。
木村:これは私個人の考え方ですけど、VRは触覚とか嗅覚とか味覚はまだ誤魔化せないんですよね。五感すべてを誤魔化せるようになると、本当にAVの世界に入り込んだ感覚になると思います。VRの進化が進むと、『マトリックス』のように人間がカプセルの中で寝ているだけで全てを体験できるようになるかもしれません。そうなると肉体が滅びても生きられるので、肉体から解放されて、電気信号を脳に送っていろいろな体験ができる。まさに不老不死の世界になります。
井出:鬼滅の刃で言うと鬼になれるんですよ。多分そこまでいきます。
—そういった現実が到来するまでアダルト業界ではVR作品の開発を続けるのでしょうか。
木村:続けるでしょうね、間違いなく。でもVRの普及率はまだまだなんです。安いVRゴーグルだとクオリティが低いし、一人暮らしじゃない限り買っても活用する場面が少ない。ゲーム機や一般的なデバイスのVR対応が少しずつ進んでいますが、それが更に、高性能コンタクトレンズくらいに軽量・小型化していく。そして私たちは映像のクオリティを上げていく。一般のデバイスから世の中の人達がVRの世界に入り、それに付随してVRアダルトの世界に没頭してもらいたい。それはまだまだなんですよね。
航空会社や旅行会社が旅行を疑似体験するVRをPRとして使っているというのは聞いたことあります。良いなと思ったのは、その擬似旅行をVR内で導いてくれるのは可愛い女の子なんです。こうやって手を出すと握れて、手を引っ張ってもらえる。これを考えた人は旅行会社のエロい人だと思っているんですけど(笑)。本当に一般の企業もビジネスとしてそういったことを真面目にやっているんです。それでもVRのAVがあまり伸びないのはゴーグルのサイズ感や利便性といった技術的な問題があるのだと思います。
井出:医療もVRの導入は遅いですよね。こんなに真面目にエロを考えてる人たちがいるんですから、医療にももっとVR技術を活用してもらいたいなと思います。
アダルトビデオを取り巻く環境の変化
—これからのAVには何が求められると思いますか。
木村:やっぱり「双方向」がキーワードになると思います。ますます求める人と作る人との距離が近くなっていることを実感しています。弊社のVRでもユーザーさんに台本を書いてもらって作品化する試みもはじめました。
—明日花キララさんや三上悠亜さんが今時の女の子に強い支持を受けています。そういった変化は作品の表現やプロモーションに変化をもたらしたのでしょうか。
木村:女優さんの売り方やプロデュース方法に変化がありましたね。男性が喜ぶことだけではなくて、女の子がそれを見たら共感できるようなことを発信するようプロデューサーとして提案してみたりとか。そういうのは今まではなかったです。
—女性向けのAVも増えてきましたね。
井出:女性向けのアダルトコンテンツの誕生には時間がかかりました。AVは男が見るものという先入観ありきで成功してきたので、作り手側に良くも悪くも昔のやり方で勝負できるという勝ちグセが残っていたんですよね。世の中がLGBTや女性のエロに関心を向けたことで軌道修正しなきゃいけなくなった。それによって女性向けAVが生まれましたよね。SILK LABOさんはいわゆるイケメン男優さんをメインにしたドラマ仕立ての作品を作っています。そういった作品が売れ始めてから、女性を主体にしたアダルトコンテンツサイトが出来上がりました。
—ユーザーの趣向や意見が重要性を増しているんですね。
木村:作り手が一方的に作品を提示するだけではなくて、ユーザーの声に耳を傾けながら、ユーザーが作ってほしい作品や見たい作品をつくっていく。そういう双方向な交わりがうまく成功したメーカーや作品が受け入れられていくんじゃないかなと思いますね。
取材・文 鈴木秀喜